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■ No.26 絵板変えました NAME : こさ / TIME : 2007/02/25 (Sun) 00:24 / PAINT TIME : 11分35秒
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元々別用途だったのを再利用するだけですが! ぼくが適当に描きちらかして遊ぶためのアレですが気が向いたら適当に描き散らかして行ってください。

消すも消されるもなんのその。

 


■ No.16 モーニングコーヒー NAME : こさてん / TIME : 2006/01/27 (Fri) 04:59 / PAINT TIME : 1時間52分11秒
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起き抜けのコーヒー。
NAME : ストッパー
TIME : 2006/02/03 (Fri) 22:50
「ホラ、周防」
「ん…」
 まだ寝ぼけ眼を携えたままの美琴に、花井はマグカップに入ったインスタントのコーヒーを差し出す。彼女はベッドから抜け出すと、ぶかぶかのシャツから僅かにはみ出たそれをおずおずと受け取り口に含む。
「……」
「……? どうした」
 視線がかち合い、思わず聞いてみる。彼女が、コーヒーを飲むことよりも自分を見つめることに執心しているように見えたからだ。

「……」

 するとどうしたことか、美琴の眉尻が徐々に上がっていく。眉間にも皺が寄り始めた。きっとマグカップに隠れた口元は、可愛くとんがっているのだろう。
「理由がいるのかよ」
「?」
「あたしが、その、お前の顔を見るのことにさ」
 そう彼女が言うと、ズズズッと大きな音を立ててコーヒーをすすり始める。すると、あてつけるように目元も大きく逸らしてしまった。


 昨夜は久々に燃え上がった。まあ、そういった機会が随分とご無沙汰だったのが原因なのだが。互いに恋愛事に慣れておらず知識も乏しければ、そんなコトを言い出す勇気も出ず、誘われてもなかなか踏ん切りがつかないのだ。
 
 だから昨日は何度も何度も重なったわけなのだが。


ばふっ


 突然、花井の顔面に枕が飛んでくる。
「……何をする周防」
 メガネを装着していなくて良かった。でなければ、今頃フレームが曲がっていたかもしれない。
「昨日のコト、思い出してたろ」
「む……」

 図星。
 
 恋人の機微には鋭いのが女性という生き物であるが、彼女の場合幼なじみでもある。大方、その表情から花井の考えを言い当てたのだろう。
「スケベ」
「……」
 たった一言で随分傷つけられる。まだ下手くそとなじられないだけマシだが。
 
 心を読まれ何かしら言い返したかったが、生憎彼女は既に素知らぬ顔。下手なことを言い返しても、ハイハイと受け流されるに決まっている。
 だったら。

「そういえば昨日は随分と乗り気だったな」

 ゲホッ

 マグカップの中へコーヒーを噴き出す音が耳に届く。
「なっ……なっ……」
 顔を赤くして肩を震わせる彼女。恥ずかしいのかそれとも怒っているのか。おそらく、その両方なのだろうが。

 しかし、彼女を起こしてあげただけでなく起き抜けのコーヒーまで用意してあげてたというのに、ぞんざいな扱いを受けた花井の心がその程度の仕返しで収まるわけもなく。

「抱きしめられて僕の顔がお前の胸元に埋もれた時は窒息死するかと思った」

 他人が聞いたら幸せなことこの上ない不満を、にやけることもなく真顔で言い返す。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


 ボンッと顔が爆発してもおかしくないくらいに美琴の顔が赤くなる。口から見え隠れする歯の白さが随分と目立つな、と、花井が悠長なことを思っていたその時だった。

がんっ!

「ぐおっ!?」
「いつになったらお前はそういうこと言わなくなるんだよっ!」
 日々の稽古で鍛え上げられた拳が、遠慮の欠片もなく花井の頭に振り下ろされる。

「だが…事実だ」

がつんっ!!

 学ばない男には続けて振り下ろされる鉄槌。いや、それは拳であり鉄でも槌でもないのだが、殴られた当人にはそれくらい痛かったということで。

「…………自分こそ少しは手を出すのは止めたらどうだ」
「こんなことお前以外にはやるかっ!」
 ついでに今の言葉も、聞きようによっては彼女なりの惚気になるのだが。この雰囲気ではお互いに気付けるはずもなく。
 まだ起きたばかりの朝だというのに、二人は激しく口論をし始める。
 
 喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったものだ。彼らの一日も、この日は口喧嘩で幕を開けたのだから――――

 


■ No.15 こら返せ NAME : こさてん / TIME : 2006/01/25 (Wed) 20:46 / PAINT TIME : 2時間3分38秒
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きょうしつでいちゃつくばかっぷるとか
NAME : ストッパー
TIME : 2006/01/27 (Fri) 00:21
キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴り終わると、それまで張り詰めていた教室の空気が一気に緩まる。教師がその場を後にすると、生徒達は気兼ねをすることなく各々自由に移動し、仲の良い友人同士で話に花を咲かせ始める。文字通りの休み時間だ。
 そんな喧騒の中、自分の机に突っ伏し、束の間の夢の世界に旅立とうとする男子生徒が一人。大き目の黒縁メガネを傍らに置き溜息をつくと、彼はいよいよ寝息を立て始めた。

(あれ……?)

 美琴が、そんな普段の彼らしくない様子を目に留めたのはその時だった。そういえば昨日、彼の部屋は日が変わって随分経ってからも明かりがついていたような気がする。毎朝四時に起床して勉強するのが彼の日課だから、大方睡眠時間がほとんど取れなかったのだろう。
「……」
 おもむろに近づく。寝顔は腕に隠れて太い眉の端しか見えない。規則正しく寝息が聞こえてくるが、もしかして本当に寝入っいるんだろうか。

 そこで美琴は、以前彼に忠告されたことを思い出す。
あれは彼女が昼休み開けの睡魔に負け、こくりこくりと垂れる首を、頬杖で耐え凌いでいた時のことだ。教師に不意打ち気味に問題を割り当てられ、恥をかいたことがあった。その授業後に、彼から『授業中に寝入るなど気持ちがたるんでいる証拠だ』と手厳しい言葉を喰らったことがあったのである。あの時は、自分に否があったから反論せずに口を噤んだのだが。
(じゃあ今のお前はどうなんだよ)
 やっぱり理不尽な感情は存在してたようで。あの時だけじゃない。細かい小言を日頃ぐちぐちを言われ続けてきた不満が、今になってムクムクと湧き上がってきた。

 今は授業中じゃなくて休み時間なのだが、と彼が起きていたら反論していたのだろうが。生憎、今は違う世界へと旅立っている最中である。

 にやり、と性格の良い美琴にしては珍しく意地悪気な笑みが顔に浮かぶ。続けて、眠っている彼の耳元に口を寄せ、手を添える。
 そして。

「起きろって花井っ。まだ授業中だぞっ」
 いかにも焦ってます、というような声色を作り、素早く言葉を解き放った。
 
「む……!?」
 
 次の瞬間、がばりと勢い良く彼、花井は起き上がる。寝ぼけた眼を急いで擦り、ぼやけた黒板を見つめる。そこに、白いチョークの線は一つとして走っていない。
「おはよ」
「……」
 隣にいる幼なじみの挨拶に言葉を返すことも無く、教室を見回す。椅子は半分以上が空席となっており、なにより騒がしい。これはどう見ても授業中の光景ではない。
「……くだらん嘘をつくな」
「あははっ、涎垂れてるよ」
「……」
 謝られるどころか、己の失態を笑われながら指摘され、花井のイライラは更に募っていく。大人しく寝てただけでどうしてこうもちょっかいを出されないといけないのか、理解に苦しみ始める。
「周防、僕は 眠 い ん だ 。分かったら 邪 魔 し な い で く れ 」
 霞がかかった頭では適当な推論が浮かばなかったのだろう。とりあえず、怒涛の如く押し寄せる欲求を満たそうと、邪魔な存在を排除しにかかる。
「へぇ……そんなこと言って良いんだ」
 一方の彼女は、顔のニヤつきを治めたくても治まらない様子。これまた本当に意地が悪そうな笑みだ。
「じゃあこれはいらないんだな?」
「……なっ」
 そう言いながらひょいと掲げられた美琴の左手には、彼が普段身につけているあの分厚いメガネが握られている。花井が急ぎ自分の机の上に視線を移すと、置いておいたはずのそれがない。
「おやすみ花井、ゆっくり休めよー」
 じゃ、と手で挨拶をしながらそう言い残すと、美琴は花井の席から離れていく。
「……まっ、待て周防! 何故こんなことをする!」
 動転しながら花井は、彼女の背中を追いかけ始める。あれが無いと次の授業を満足に受けることができない。寝てただけなのに、なんでこんな悪戯されなくてはならないのか、という疑問を抱えながら。
「自分の胸に聞いてみなーっ」
「分かるか! こら返せっ」
「お前が追いついたら返してやるよー」
 問題児の集まりである2−C組ではあるが、高校生にもなって教室で鬼ごっこを繰り広げる人間はそうそういない。しかも当事者はかたや委員長、かたやクラスの人気者。他の人間の注目を集めないわけが無い。

「バカップルね」
「バカップルだね」
「……面白い」
 美琴の親友である三人が、一人は呆れながら、一人は満面の笑顔を浮かべながら、
一人はカメラを構えながらそれぞれに聞こえる程度の声でひっそり呟く。

 とりあえず確実なことが一つある。それは問題児クラスの2−C組が、今日も騒がしいということだ――――

 


■ No.12 ベッドの上で NAME : こさてん / TIME : 2005/05/12 (Thu) 00:45 / PAINT TIME : 1時間36分1秒
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「………」
NAME : ストッパー
TIME : 2005/05/12 (Thu) 20:53
 微かな衣擦れの音が、部屋の空気を震わせる。
まだ彼女は着替え終えていない。それどころか、下着を外気に晒したままベッドに身を横たわらせている。
人の目がないとはいえ、随分大胆な行動である。

「……」

 無言のまま、寝返り一つ。
その目に映るのは窓の向こうにある窓。カーテンが掛かっているから、部屋の主はまだ帰宅していないのだろう。そういえば、文化祭実行委員会の所へ出向き、交渉するとか言っていたような気がする。


「なんであんなこと言ったんだよ……バカ花井…」


 思い出すと今でも頬に朱が走る。
学園祭の出し物を決めるという名目で、夜の校舎で行なわれたサバイバルゲーム。
ほとんどの敵を打ち倒し、油断した瞬間、敵チームの生き残りだった播磨に銃をつきつけられ。そして何か意図があったのだろう、敢えて彼の目の前で彼女は撃たれたのだった。

「……」
 打たれた箇所を指先で擦る。もう痛みも無いし、腫れも引いている。
あの時のことを思い起こさせるような外傷は、既に残ってはいない。
だけど。夜の校舎中に轟いた彼の絶叫が、どうしても頭の中から出て行ってくれない。

 
 そして翌日、つまり今日。生徒指導の教員にクラス全員がたっぷり絞られた後、教室に戻ってからのことだった。
 演劇も喫茶店も両方行なうのは無理じゃないか? というクラスの大半の意見を遮り、なおかつそれを統率する彼の姿は、お世辞を抜きにしても、何故か惹かれるモノがあった。
もっとも、そこに特別な意味があったかどうかは、彼女自身にも分からないことである。

 しかし彼女が気にしているのはそこじゃない。


「……はぁ」


 溜息交じりに、また寝返りを打つ。
なんであの時、彼はあんなこと言ったのだろうか。何度目になるか分からない反芻。
直後に播磨が何気なくその言葉を呟いたおかげで、その後クラスメイトに散々からかわれることになったのだ。親友達の底意地の悪そうな笑みを見ていると、それは恐らく今日だけで終わりを告げることはないだろう。きっと明日以降も、ひょんなことで持ち出されるに違いない。

「何が“美コちゃーん”だ……」

 口に出すと、幼い頃の彼の姿が、脳裏をよぎる。
それと同時に、自分が撃たれたと同時に激昂したあの時の彼の姿も。

誰がどう見ても別人だ。
思わずフッと笑みがこぼれる。


 本当は、恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしようもなく腹が立って。
いつ文句を言ってやろうか、そればっかり考えていたのに。
 口に出して、彼の今と昔のギャップを思い浮かべただけで、そんな考えは何処かへ行ってしまった。


「ま、理由はその内聞くけどな」
 頭の後ろで手を組み、それにもたれる。
その彼女の声色が随分と嬉しそうに聞こえたのは、果たして気のせいだったのだろうか―――

 


■ No.11 奇襲攻撃 NAME : こさてん / TIME : 2005/01/20 (Thu) 18:14 / PAINT TIME : 2時間41分27秒
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不意打ち不意打ち(´∀`)
NAME : ストッパー
TIME : 2005/01/23 (Sun) 02:57
「随分と懐かしいものだな……」
 久しぶりに歩んでみた。昔は毎日通った、母校まで続く長い長いこの坂を。
昔といってもあれから3年しか経っていない。しかし、時の流れは思っていたよりも随分と速く流れていて。
まだ自分が高校生だった頃の青い記憶。クラスメイトとの何気ない日常。
それが今の彼にはとてつもなく懐かしく、また羨ましかった。

「言ってることが爺臭いぞ」 

 思いに耽っていたところを、柔らかい口調で現実に引き戻される。
いささかムッとしてしまう。間髪いれずに言い返そうかとも思ったが、周りには夏期講習を終え、高校から出てきた後輩達が何人もすれ違っていくこの状況ではそれもできない。
今の言葉は無視することにした。
数ヵ月後に訪れる受験のことを憂いてだろう、すれ違いざまに彼らの口から聞こえるのは不安や愚痴など、後ろ向きな台詞ばかり。

「あたし達も、受験生の頃はあんな感じだったのかな」
  久々に高校に行ってみたい、と言った自分の後をついてきた幼なじみが。
それとも抵抗はあるが、今は恋人と呼ぶべきなのだろうか。
彼女もまた懐かしさを含んだ口調で、重い足取りで坂を下りていく後輩達を眺めている。

 それを見て、少しずれたメガネの位置を定める。
「爺臭いんじゃなかったのか?」
「……っ!」
 見えないが、きっと自分は勝ち誇った表情をしているのだろう。
悔しそうな表情で彼女がキッと睨んでくる。とは言っても、プゥッとほおを膨らませているところを見ると、本気ではないようだが。
「う、うるさいなっ」
 黒光りする艶やかな髪が、流れて揺れる。
顔を背けるその様が普段の彼女と随分と違って、少々幼く見えた。


 重なる。


 どんなに年が過ぎていっても。互いの立場が恋人同士になっても。
そしてきっとこれからも。

 彼女はずっと、僕が憧れた美コちゃんのままだ――――


 高校を卒業して、県外の大学に通うために一人暮らしを始めて3年が経って。
自分の隣に、『恋人』である彼女がいることに実感が沸かないと感じてしまうのは、昨日今日に始まったことじゃない。
「周防」
「ん?」
 名前を呼ぶと、無邪気で穏やかな表情を惜しげもなく、自分だけに覗かせてくれる。

 気付かなかった、ずっと。
彼女と一緒にいることが己の中で、当たり前のことだったからかもしれない。
家は隣でクラスも同じ、放課後や休みの日も道場で顔をあわせる日常。
それが当然だった。
だけど、いざ故郷から離れて新たな暮らしを営むうちに、時折住み慣れた町が恋しくなることがあって。
 その時、一番最初に会いたいと願い、思い浮かんだ顔は親でも友人でもなく。
とめどなくあふれ出す感情を、苦笑と卑下を繰り返すことで誤魔化す毎日。
それがどうにも苦しくて。
衝動から胸を掻き毟ることだって、そのうち珍しくなくなっていった。


「一つ、聞きたいことがあるんだ…」
「聞きたいこと?」
 互いに、歩みを止める。
 
 認めてからは早かった。
これで、煩(わずら)ってしまったのは何度目だろう。
久しぶりに実家に帰って、彼女に話しかけようとして幾度も躊躇した時。
自失するほど愕然としてしまった。
もう、自分が彼女を幼なじみとしては見ることが出来ないことに、気付いてしまったから。

 抱いた感情は既に、青く幼い慕情へと変貌を遂げていたから―――――

 桜の花弁が散りゆく歩道で。
彼女を抱きしめながら想いの丈を真正面からぶつけた時のことは、鮮明に覚えている。
 告げると同時に、その時の彼女がポロポロと涙をこぼしながら。
しゃくりを上げて、弱々しく頷いてくれたことも。
忘れようはずがない。
そう、気付いてからは全てが早かった。
「とても重要なことなんだ」

 だからこそ常によぎる不安もある。彼女の、自分への想いがもしかしたら。
離れて暮らしていることで、変わってしまうんじゃないかという、大きな不安。
そしてそれとは違う不安が、もう一つ。

 怖いんだ―――
本当にお前が、僕のことを思ってくれているかどうか――――――


「……」
 無言のまま彼女は目を見開く。発した言葉の意味が、あまりに意外だったからだろうか。
いたたまれなくなって、顔を逸らしてしまう。
向けられた視線がとても苦痛に感じるのは、きっと気のせいじゃない。
 校門から絶えず現れる後輩達の人波は、弱まってきてはいても決して途切れない。
二人きりでないことが、唯一の救いだった。

「……じゃあさ」
 思いつめたような声色が、耳を貫く。
無意識に視線を戻すと、儚く寂しげに潤んだ瞳がそこにあって。
「お前は……どうなんだ?」
「僕は……」
 聞き返されるとは思ってなかった。一瞬だけどもる。
だけど、答えは決まっている。

「僕は…言える。お前のことを……誰よりも強く想って……っ」
 
 途中言葉を遮られ、最後まで紡げなかった。
いつの間にか、頬は彼女のその透き通るような両腕に包み込まれていて。
唇に跳ね返る柔らかい感触と、自分のものではない緩やかな味。
突然、だった。
そのことに気付いた時には、もうそれは離れていて。

「あたしも……だよ」
 心臓が勝手に、加速する。
頬を包んでいた彼女の腕も、名残惜しそうに宙を彷徨いもとの場所へと戻った。
「花井……」
 言葉はいらない。最初から。
もっとも、恋愛に疎い彼女にとっては珍しく積極的な行為に、既に自分は参ってしまっていたのだが。

「ホラ! もうすぐだから走って行こうぜっ!」
 言いながら彼女は、腕を取って前を向いて坂を駆け始める。
揺れる黒髪の間から見える耳が、ひどく赤い。
赤くなった顔を見られたくなかったのだろうか。そんな態度が随分可愛く思えた。
つられるように自分も足を速める。
 ふと、道の反対側を歩いていた一人の女性徒と目がかち合った。
その娘もまた顔を赤く染めていて。その小さな手で大きく開いた口を塞いでいる。
どうやら、今の瞬間を見られてしまったらしい。

 ついつい笑みがこぼれる。
それは、ずっと胸に引っかかっていた不安が取り除かれたからでも、唇を繋いだ瞬間を見られてしまったことによる照れ隠しでもなく。
これ以上ないくらい分かりやすい態度で答えを返してもらったから――――

 息が切れ始めたところで、ようやく矢神坂を上りきる。
屈んで息を整え、そしておもむろに二人は視線を上げた。
そう、空を切り裂くようにそびえ続ける、懐かしき学び舎に――――

 


■ No.10 たこ焼き NAME : こさてん / TIME : 2004/11/26 (Fri) 23:05 / PAINT TIME : 2時間28分34秒
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お祭りの準備とか。
NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/29 (Mon) 02:15
「春坊、ここにある材木を持っていってくれ」
「分かりました」
「すまねえな、関係ないのに手伝わせちまって」
「いいえ、お構いなく。人手が足らないんですから仕方ありませんよ」
 申し訳なさそうに謝ってくるテツに、気にしていないという意思表示を見せるため、その言葉と共に花井は笑顔を返す。
いかにも重そうな太い材木を肩で難なく担ぐと、広場の中央へ向かってスタスタと歩き始めた。


 広場のあちこちからは、かなづちの叩く音と人々の喧騒が絶えず響く。
間近に迫った祭の準備に、出店の設営をしているのだった。
矢神市で行われる祭は近隣の市町村に比べ規模が大きいため、その数も相当なものになる。
店の間を縫うように広場の中央まで行くだけでも少々骨が折れたが、花井は何とか目的地に辿り着くことが出来た。
そこでは美琴の父親が、祭りには必要な矢倉の設営に精を出している。
「おじさん、これどこに置けばいいでしょうか?」
材木をどこに置くのか尋ねようと、声をかけた。

「おおっ春坊、すまねえな。適当にそこらへん置いといてくれ」
「分かりました。じゃあ残りも持ってきますね」
 担いでいた木材を足元に下ろす。
運んでくる途中で少々凝ったのか、肩をコキコキと鳴らした。
「本当にすまねえな。若い奴の大半が他に頼まれた仕事に就いてて、こっちは人手が足りねえんだ」
「さっき、テツさんにも同じことを言われましたよ」
 先ほどと全く同じ問答に、今度は苦笑が漏れた。

「ところで春坊、ウチの組の半纏着てるんだな」
「はい。手伝う際に、貸していただきました」
 花井のその姿を、美琴に父親は顎に手をやりながらしげしげと見つめだす。
「よく似合ってるぜ。どうでえ? その半纏、どうせなら毎日着てみねえか?」
「……? それはどういう……」

「親父っ!! 何言おうとしてんだよ!」

 突然届いた叫び声。
振り向くと、美琴そこに立っていた。彼女もまた周防組の半纏を身につけている。
その時の彼女の表情は、もはや言うまでもあるまい。
「ちっ、帰ってくるのが早えんだよお前は」
「お、親父こそ変なこと言うな!」
「……?」
 露骨に残念がる父親に美琴は声を荒げる。
一方、一人話についていけず花井は疑問を浮かべ始めた。

「まあそんなことはどうでもいい。美琴、お前も春坊と材木運んでこい」
「……娘に力仕事押し付けるか? 普通」
「そんな軟弱に育てた覚えはねえぞ。ホラ、さっさと行け。ただでさえ人手が足りねえんだからな」
「はいはい、分かったよ。」
 納得いかない表情を浮かべながらも、美琴は花井を引きつれ材木を取りに歩き始めた。

「花井、悪いな。お前は関係ないのに」
 申し訳なさそうに、美琴は口を開く。
それもそのはず、二人が取りに行った時には材木はもう一本だけしか残っておらず、それを花井が運んでいるからだ。
どうやら、もう片方の仕事に就いていた若い衆が合流し、ほとんど持っていったらしい。
最初美琴は自分が持つと言い張ったのだが、「こういう仕事は男がやるものだ」と花井は聞き入れず、結局美琴は手持ち無沙汰である。
しかも彼は本来、部外者である。だからこそ余計に申し訳なかった。

「ふふっ」
「? 何がおかしいんだ?」
 突然笑い始めた花井に、美琴は少々困惑する。
「これで三度目だ」
「何が?」
「謝られたのが、だ。しかも理由も全て同じなのだから可笑しくもなる」
「そっか……でも」
「そんなに気にすることはない、どうせ僕も暇だったのだし丁度良かった」
 花井はそう言うが、やはりこのままでは申し訳ない。
何かお礼をするべきだろう。
そう思って辺りを見回すと、既に設営を終え、試し焼きをしている店舗が目に入った。

「花井、ちょっと待っててくれねえか?」
「? 別に構わんが……」
 美琴はそれだけ言うと、その店舗に駆け寄る。
二言三言言葉を交わし、財布からお金を取り出すとたこ焼きを片手に戻ってきた。

「周防、お前今からそんなもの買ってどうするつもりだ?」
「これか? お前へのお礼だよ。言葉はもうお腹一杯らしいからな」
 言葉にほんの少し皮肉を混ざった。しかしそう思えなくなるほどの眩しい笑顔を美琴は浮かべる。

「これなら受け取ってくれるだろ?」
 断ったところで、彼女は聞き入れないだろう。その厚意を花井は、ありがたく頂戴することにした。
が、食べようとして気付く。
「すまん、周防。この状態では食べることが出来ん」
そう、花井は材木を抱えたままだ。両手が塞がっていては食べることが出来ない。
「別にいいよ、食べさせてやるから」

……

…………

……………………

「何?」
 彼女の言葉を理解するのに少々時間を要した。
その間にも美琴はたこ焼きに楊枝を刺し、冷ますためにフーフーと息を吹きかけている。


「いや、おい、周防」
「ホラ」
 戸惑う花井に気付くことなく、美琴はそれを目の前に差し出す。
「……」
「早く口開けろって」
 どうやら、この様子では何を言っても無駄なようだ。
花井は観念して口を開ける。美琴はそこにたこ焼きを近づける。


「はい、あーん」


ぱくっ

もぐもぐもぐもぐ


「美味いか?」
「まあ……美味い」
「そっか、良かった」
 ようやく礼が出来て満足したのか、彼女は顔一杯に喜色を見せる。
花井は花井で言いたい事がたくさんあるのだが、今言ってもそれは意味の無い気がした。

そうこうしてる間に、美琴はまた新しいたこ焼きを楊枝で刺す。
差し出されたそれを、花井は食べる。


 今さら言うまでもないことではあるが、二人の関係は幼なじみである。


しかし。
その二人の関係を知らない人がその状況を見れば。
それは、誰がどう見ても恋人同士――――

 


■ No.9 背中合わせ NAME : こさてん / TIME : 2004/11/15 (Mon) 23:54 / PAINT TIME : 1時間39分30秒
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聞こえるのは心臓の音。
NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/16 (Tue) 20:46
トクン、トクン

 先ほどから、途切れることなく聞こえてくる。
背中を預けた相手の不確かな音階が、より二人を気まずくさせる。
「……」
「……」

トクン、トクン

 止まらない。静まらない。
むしろそれは逆に速まり、大きくなっていく。
相手の鼓動が聞こえているのだから、自分の鼓動も相手に聞こえているだろう。
それがたまらなく恥ずかしかった。
 そもそも後ろにいる人物は恋人でもなんでもない。ただの幼なじみだ。
なのに、なんでこんなに意識してしまっているのだろう。
顔が赤いのが見なくても分かる。耳が、熱い。
「あ、あのさ」
「す、周防」

 そんな気まずさを嫌って話しかけようとしたが、相手もそう思っていたらしく。
同時に口を開いたことで、余計にこの場に居辛くなる。
「あ…え……っと…」
「む……」

 互いにぎこちなく、互いに舌っ足らず。
普段の様子は何処へやら、二人は何度も相手の様子を窺おうと顔を動かすが、いざその姿がみえると、パッと視線を元に戻す。

 その繰り返し。

「んんっ」
「っ!」
 喉が詰まったのだろうか、相手が咳払いする。
ただそれだけのことなのに大きく反応してしまう。
肩がビクッと震えた。
「ど、どうした……?」

 それが気になったのか、聞き返してくる。
「え…いや…、その…」
 その返答は言葉にならず。
話しかけられただけで、収まりかけた鼓動が、元に戻りかけた顔の色が、また。

 速くなる。   

赤くなる。


 そしてまた、相手を意識してしまっていた――――

 


■ No.8 編み物 NAME : こさてん / TIME : 2004/11/12 (Fri) 20:26 / PAINT TIME : 1時間29分44秒
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机でうとうと。
NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/13 (Sat) 01:43
「ふあぁぁ……」

 誰も見てないことをいいことに、周りに遠慮することなく美琴は大きなあくびをした。
日はとうに変わり、もうすぐ時計は深夜2時を指そうとしている。
風に吹かれて、窓が時折ガタガタと音を立てた。
それを聞くたびに外は寒いんだろうな、というイメージと部屋の暖かさの有難みが彼女の脳裏に浮かんで消える。

 今彼女の前にあるのは中途半端な大きさになった毛玉と、編みかけのマフラー。
一週間前、隣の家の幼なじみと窓越しに交わした会話がきっかけだった。
 

 ――――少しは女らしくしたらどうだ。

――――おじさんとおばさんも心配しているんじゃないのか?

 
 相手は今の彼女を全否定するような言葉を浴びせてくる。
そうなれば、美琴も当然黙ってはいない。売り言葉に買い言葉。
彼女も相手の短所をズバズバと口にしていく。
そして言い負かされそうになった花井が、最後に彼女に放った言葉。

『僕はもっと淑やかな女性の方がずっと好きだがな!!』

 そう言われた瞬間、美琴の頭に一気に血が上っていく。
また言い返そうとしたが、その時には彼はとっくの昔に窓を閉め切り。カーテンで自分の姿を隠し終えた後だった。

『バカ花井ーー!!』

 姿が見えなくなった窓に、今更言っても何だか虚しかった。
ならば、見せてやろうではないか。自分も女らしいところがあるということを。
そして後で思いっきり驚かせてやる。
そう考えた美琴は今、慣れない手つきでマフラーを編んでいく。
これを渡したときの彼の顔が見ものだ。どんな反応をするだろう。考えただけでも笑みがこぼれる。


「花井っ」
「なんだ? 周防」
「ホラッ、これやるよ!」
  
 フワリッ

「これは…?」
「言っておくけど、別にお前のために編んだわけじゃないからな。あたしだってこのくらいちゃんと出来るんだぞって言いたかっただけだから」
「……」
「どうだ? 驚いたか?」
「ああ、驚いた。……周防」
「?」
「すまないな……」
「なんだよ。急に改まりやがって」
「大切にする」
「べ、別にいいよ。所々ほつれてるしさ」
「いや……お前が編んでくれたものだ。僕はきっと、大切にする」
「ば、ばかやろ……」

くぅ…すぅ……

 スタンドの灯りはついたまま。
机に伏したまま、浮かんだ笑みを腕と髪の毛で隠しながら美琴は、夢を見始める。
それは彼女が、まどろみの世界に身を投じた何よりの証拠。
本当にこのマフラーを渡したとき、彼は一体どんな顔をするのだろうか。

フォトグラフの中の花井の顔が、幸せそうに眠る彼女に少しだけ微笑みかけた――――

 


■ No.7 想いを遂げて NAME : こさてん / TIME : 2004/11/09 (Tue) 22:40 / PAINT TIME : 3時間17分45秒
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IMG_000007.jpg ( 50 KB ) by しぃペインター通常版
花井は未だ夢の中。
NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/09 (Tue) 22:27
 夜の帳がとうに降りた深夜、美琴は一人目を覚ます。

「……」
 誰もこの場を見ていないことは分かりきっているが、思わずシーツで胸元を隠す。
やはり気恥ずかしいのか、それとも余韻が身体に残っているからか。

隣には幼なじみの、いや、幼なじみだった男が深い眠りに落ちている。
半分ほど隠れた、メガネを外した彼の顔は起きている時よりも幾分幼く見えた。
身体を少し動かすたびに、シーツの擦れる音が部屋の静寂を切り裂く。
そして、その音を耳にすると。
荒々しく自分を抱き、ひたすらに求めてくる彼の姿と。その彼に身体を刻まれる度に甘い嬌声を上げる自分自身を思い出す。

顔が熱くなっていくことで、頬に朱が奔っていくのが見なくても分かった。 

でも恥ずかしくなることはあっても。すぐにそれを否定したり、必死に頭を振ってその頭に浮かんだ扇情的な自分達の姿を追い出そうとすることはなくなった。
むしろ逆に思わず笑みがこぼれる。それを笑顔というには、少々難しいと思えるほどの微笑ではあるが。

最初はもちろん戸惑いを隠せなかった。
幼なじみだった彼が、今は自分にとってかけがえのない一番大切な存在になって。
付き合い始めた頃は、人前で手を繋ぐのも抵抗があった。
誰もいない公園で彼と自分の唇が初めて繋がりそうになったとき、余りの恥ずかしさに突き飛ばしてしまった事だってあった。
初めて身体を繋いでからのそれから数日間は、彼の顔を見ることが出来なかった。


 だけど、今の自分にはそんな初々しさは残っていない。
愛されることの喜びと、抱かれることの悦びを感じとれるようになったから。
そして自分が思っていた以上に。
彼は自分に昔からの変わらぬ愛情と、立場が変わったことで初めて知ることができた愛情を注いでくれるから。

だから、彼が抱いてくれるたびに思うんだ。


あたしは、幸せだ――って


その時、夢の世界に落ちたままの彼があたしの名前を呟く。
起きたのだろうか、と訝しがったがそんな様子は見えない。どうやら寝言のようだ。
だけどその寝言に呼ばれた時の呼称が。「周防」でも「ミコちゃん」でもなく。

「美琴」だったのは、呼んだ本人を含めて誰にも言わない。
それはもちろんあたしだけの秘密だ――――

     

 


■ No.6 大樹の下 NAME : こさてん / TIME : 2004/11/05 (Fri) 23:35 / PAINT TIME : 1時間15分2秒
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IMG_000006.jpg ( 29 KB ) by しぃペインター通常版
冬の或る日。
NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/06 (Sat) 11:14
 ハアッ……

 寒さで動かなくなりそうな両手に、自分の息を吐きかける。
白く曇った空気が己の手を包み込んだ。

「早く来いよな…」

 昔、幼なじみと共に何度も登った大樹の下で。
彼女は佇み、待っている。
ただ会いたいだけなら学校でも道場でもいいはずだ。
しかし、彼女はここにいる。

ハァッ…

 再び悴(かじか)んだ両手に息を吐く。彼女の待ち人はまだ来ない。
美琴は自分の背中を預けている大樹を思わず見上げる。
 今の季節は既に冬。幾つにも分かれている枝には当然一枚の葉も残ってはいない。それ
らは自らの役目を終えたかのように枯れ落ち、美琴の足元周りに敷き詰められている。枝
をむき出しにしたその樹は、夏の頃に比べて随分と頼りなく見えた。

「寒いだろ…馬鹿」

 厚着せず制服のままで着てしまったことを後悔しながらも、美琴はその場から動かない。
どうしてもここで会いたかった。
この場所を知っているのは自分と彼の二人だけ。
誰にも邪魔はされない。干渉されることもない唯一の場所。

 今の美琴には、道場の門下生や学校の友人、果ては家族でさえも邪魔な存在に思えた。
必要なのは、会いたいのは。
ずっと一緒に育ってきた、幼なじみのあいつだけ。


NAME : ストッパー
TIME : 2004/11/06 (Sat) 11:14
 彼が待つことがどうしてこんなに寂しいのか、それは分からない。
必ずここに来てくれる。でも、早く会いたい。そして自分の心に出来た大きな穴を、その
逞しい腕で抱きしめられることで早く埋めて欲しかった。

「いつまで待たせるんだよ…」

 彼女のそんな気持ちをあざ笑うかのように、肌を突き刺すような寒風が一瞬だけ吹き荒
れる。カサカサと音を立てて、枯れた落ち葉が地面を転がる。
やがてそれは空に舞う。
風に吹かれたことで髪がなびき、彼女の視界を一瞬だけ遮ったその時。

 カサリッ

 大地を踏みしめ、落ち葉を踏みしめながらこちらへ向かってくる足音一つ。
美琴が振り向く。
 そこにいたのは当然――――

「待たせてしまったようだな…スマン」
「いいよ」
 待っていた人に近付く。その男の息は少しばかり弾んでいる。待たせては悪いと、走っ
てここまで来てくれたのだろう。

「もう会えたから」

 そう言いながら美琴は、ふわりと笑顔を浮かべる。
暖かさを保った花井の手を取り、そして自分の頬へ這わせるように押し当てた―――

 



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